2009年6月3日水曜日

上京 その2


今回の東京行きの目的は、5年前“お互い元気でいたらやりましょう”と約束していた丹波のSさんの個展が、ご本人の体調不良と幾つかの事情で1年半繰り延べになり、そのままスケジュールに穴をあける訳にもいかず、横浜のOさんにお願いして引き受けて頂いた催事「工芸の愉しみ」の物選びと二、三の展覧会を見る為です。以下日記より、

バスは予定通り5月27日9時20分新宿着。山手線に乗り換えて最寄り駅の渋谷に向かう途中、何気なく車内の案内表示を見ると“人身事故のため東横線が全線運休”とか。渋谷で降りず、そのまま品川まで行き京浜東北線に乗り換えて桜木町駅に向かう。久しぶりのバスに乗り換え、港の見える丘公園で下車。
少し下ってOさん宅へ、案内を乞うとほぼ11時。
不意の事故にもかかわらず遅れる事なく到着出来て、まずは一安心。Oさんとご挨拶の後さっそく物選びを始め、4時間程掛けてインドの布類ほか催事の柱になる物を選ぶ。急だったけれど、何とかなりそうで嬉しい。物選びの後、Oさんに馬車道の勝烈庵でトンカツを御馳走になる。(ここは棟方志功の肉筆画が店内に飾ってあるので有名)
夕刻、会社帰りの長男と恵比寿で待ち合わせ「山長」と云ううどん屋で鴨をあぶったものや天婦羅で一杯飲む。べらぼうな値段でもなく、うどんも美味しくて大満足。
さて翌日の木曜日は、35年来のオーディオ仲間F君の自宅へ。彼は最近自宅の大型システム(米国東海岸のBozak製)にJBLの075と云う名器の誉れ高いホーントゥイターを載せ、鳴らし始めたばかり。常識からすると、違う会社のしかも米国の東と西という風土の大きく異なる機器同士の相性が良いとはとても考えられず、どんなにひどい音を聞かせられるかと半ば覚悟して出掛けたところ、期待を裏切る素敵な音が聞こえて来て本当に驚いた。
ラインアップは、いつものマランツの7と8B、そしてデンオンの放送局用の大型プレーヤーにカートリッジのオルトフォンSPUを付けたもので、主に女性の声(他にカウントベイシーなど)を聴く。どのソースにも概して云えるのは、中域が厚くて(SPUのおかげか)音の隈取りがきつすぎず、それぞれの(顔というか)声を美しく聞かせているところで、予想していたJBLの音とはまるで違う。(この辺りまでの話、娘には退屈と云われました。興味のない人にはその通りでしょう、すみません。)その後町に出て、中古のCDやLDを10数タイトル買う。全盛時代には、私には手が出ない程高価だったLDが今や、ほぼ10分の1の値段(福岡ではソフトに是ほどのヴァラエティは期待出来ない)。
オペラを聴くとなると、私にはCDよりもLDの方が字幕スーパー付きでもあり有難い。そうやって、東京に出る度(と言っても一年に一度)買ったものが、ようやく30タイトル程。音楽との付き合いは民芸の世界のそれよりも古く、私の大きな(唯一のと云えないところが辛い)愉しみのひとつなので、細君にもお許し願うしかない。
土曜日は東京滞在最終日。この日は、井の頭線の神泉にあるギャラリーTOMで開催中の柚木沙弥郎展を見に行く。この建物は、私と同世代で最も好きな建築家の内の一人、内藤廣の初期の仕事の一つで、元々は視覚に障害を持つ人達の為のギャラリーとして建てられたものだ。ずいぶん前から雑誌で見知ってはいたものの、初めて訪ねたのは2年前、やはり「柚木沙弥郎展」の折。今回の「柚木展」は、この秋予定されているパリ展の「試運転」なのだとか。小さなギャラリーなので展示されている点数そのものは決して多くはないけれど、中の1点「猫のしっぽとステッキの柄」模様(と私が勝手に名付けた)を併せて屏風仕立てにしたものなど、抽象度を高めながら難解な風は微塵もない、今の柚木の立つ場所をはっきり見せてくれる作品のように見えて、今秋のパリでの作品展の成功が約束されているように私には見えた。その後、駒場の民藝館で開催中の「棟方志功の書と倭画展」へ。入ってみると、顔見知りのSさんが受付に。そして上にやはり旧知のTさんがいるとの事。上に行き挨拶して話を聞くと、この5月から正式に民藝館の嘱託になったとの事。長い事、アルバイトで食いつなぎ民藝館の仕事をして来た同君なので、彼の為に嬉しかった。見終わった後、奥で御茶を頂き長男を二人に紹介して(Sさんとは歳も近く、今度は親父抜きで来るように云われていた)、民藝館を後に。その後4、5年振りで目白の古道具Sへ、数点の買物。それから、タクシーで元代々木のYさんの事務所に行き、渋谷で揚州料理を長男ともども御馳走になり、9時頃お別れしていったん長男のアパートに。シャワーで汗を流した後、東京駅八重洲南口のバス乗り場から23時59分発大阪行き夜行高速バスで、千里ニュータウンへ。
何故だか、ほとんど一睡も出来ず翌朝8時頃桃山台駅着。モノレールに乗り換えて、大阪日本民藝館まで。開催中の「茶と美」展を見る為なり。東京のSさんやTさんも関わった展示と聞いていたので、楽しみ。予想通りの名品揃い。手に取りたいものだらけだったけれど、かなわず眼で触る。大きなウィンドウの展示(大阪でしか見られない、私の最も好きな場所の一つ)も美しく並べられ、気持ちが良い。珍しかったのは同人作家の茶碗や、仕服などに添えられた柳の「箱書き」がそのまま、見られるように添えてあった事。柳の眼とこれらのものが出会った時の熱気の名残が見えるようで、見応えがあった。

その後京都で仕事(良い物が買えました)をし、夕方の新幹線で無事帰福。新幹線で移動するといつも勿体ない(その料金だけでなく、ここには何が有りそこには誰が居る、といつも途中下車したくなる)気持ちが拭えません。短くはあったものの、中身の濃い5日間でした。

0 件のコメント: