2015年10月31日土曜日

忘れられないもの 7(薬土瓶 三種)

福岡書芸院発行の冊子「たんえん」十月号に掲載の連載記事、「忘れられないもの7(薬土瓶三種)」をお届けします。

奥が信楽、左が佐賀•白石、右は産地不明の薬土瓶
信楽焼の大きな薬土瓶
今年四月下旬の事、八女の朝日屋酒店で民族文化映像研究所制作の記録映画「うつわ -食器の文化- 」を見ました。その中で、沖縄の島々に自生するクバの葉を小さな柄杓状にした物に水を満たし、たき火で湯を沸かすシーンが出て来ます。同じクバの葉で作られた「水汲み」や「うちわ」は知っていましたが、これは初見です。画面の中で、クバの葉が焼け落ちもせず、見事に湯が沸くのを見せられると、軽い驚きに加え、長い時間の中で、試行錯誤の末に身近な材料で必要な道具を作り出す、先人の知恵や想像力に感心しました。多かれ少なかれ、私達の暮らしで使われる道具類は、その様にして考えられ作られ続けて来たものばかりです。今回ご紹介する、「薬土瓶」と呼ばれ直火にかけて薬などを煎じる際に使われる、これらの土瓶もまた、こうして作られて来た生活道具の一つです。少し前の時代(数十年前)まで、日本の各地に散在していた土鍋や薬土瓶の仕事も、材料の払底や需要の低迷(暮らしぶりの変化}で、ほとんど姿を消しました。

鳥取県岩美町のクラフト館•岩井窯を主宰する山本教行さんに伺うと、岩井窯で現在作られている各種土鍋やミルク沸かしの材料である信楽の陶土もすでに底を付き、手元に保有する材料がなくなれば、否応無しに別の材料を探すかその仕事を辞めるかしかない、とのお話を伺った事があります。これは独り工藝の世界の問題のみならず、有限な材料や資源をどう守って次の時代につなげて行くのか、この責任に対する地球的自覚(大きな想像力)が私達一人一人に強く求められている、という事でもありましょう。「早い•安い•便利」の三つの戒めに、ギリギリと巻き締められている私達現代の人間にそれがどこまで可能か、また自分の場で何が出来得るか、それを考えながらその答えを探し続けるしか道はありません。

さて、今回ご紹介する三種の薬土瓶のうち、いちばん大きなものは信楽の薬土瓶で径が27cm(土瓶の口まで含む)、高さ17cm。次が、共手の焼締の薬土瓶で径が18cm(土瓶の口まで含む)、高さ20cm(共手まで含む)で、作られたのは中国地方の何処かで詳しい産地はわかりません。以上の二つは少し前の時代のものです。最後は佐賀県白石焼の薬土瓶二種のうち、小さな方で径が19cm(同じく口まで含む)、高さが11cm。この土瓶は、私が仕事を初めて間もない30年程前、窯元まで出掛けて買って来たものの一つです。

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