福岡書芸院発行の冊子「たんえん」9月号掲載の記事、「忘れられないもの 6(三つの箱の話)」をお届けします。
今日は「三つの箱の話」です。仕事柄、私にとって一番なじみ深い箱は、何といっても段ボール箱です。また、現在作られている箱の素材の中では好きなものの一つでもあります。この段ボールの、薄いシート2枚で波形のシートを挟む構造上の工夫は素晴らしいものですし、入れるものの大きさや使い方に応じて自由に加工が出来、材料も再生可能と来れば、これだけ広く世界中で使われている事もうなずけます。ただそれも、今日ご紹介する三つの箱の様に、いつも自分の側に置いて使いたいとか、好きで好きで仕様がない、と云う理由では勿論なく、つまるところ、それが安くて便利だからでしょう。ところで、店内に目を転じて見ると、ここにもまた色々な素材で作られた大小様々の箱、あるいは箱様の物がたくさんありました。ちなみに、この素材は、竹•籐•木の皮•板•陶土•ガラス•金属•紙粘土などで、食べるものから着るものまで、様々なものを内に納める箱は、私ども人間にとって、暮らしに欠かせない大事な道具の一つと言えるでしょう。
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貝象嵌を施した木製の小箱 |
さて、今日ご紹介する最初の箱は、少し前の時代に日本で作られ、箱の表にアワビ貝の象嵌を施した木製の小箱( 縦13cm 横17cm 高さ13cm )。次にインドの紙粘土(ペーパーマッシュ)で作られた箱( 縦20cm 横30cm 高さ22cm )。そして、最後にフィリピンの6枚の板を組んで作られた箱( 縦28cm 横48cm 高さ31cm )、の三つです。これら、作られた地域も時代も違う三つの箱は身近にある材料と技術を使い、夫々の用途にかなう様に作られています。
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紙粘土製のインドの箱 |
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六枚の板を組んで作られたフィリピンの箱 |
三つの中で一番小さな貝象嵌の箱は、身の回りの細々(こまごま)とした物を入れて側(そば)にでも置いておく為のものでしょうか。全体に華美に流れ過ぎず、箱の外側は親しみ深い貝象嵌で飾り、内側を落ち着いた朱の漆で彩った愛らしい品になっています。それに比べると、インドの紙粘土製の箱は日干しレンガあるいは石の様な質感を持ち、蓋にはめ込まれた小さなミラー以外、装飾らしい装飾もなく色もまた地味なものです。ただその形は、土地の民家建築を思わせるとても魅力的なものです。欠点は強度に掛ける事で、あまり大きなものは作りません。最後は、フィリピンの六枚の板を組んで作られた箱です。
これは蓋と底の上下二枚を除く、四枚の板の両方の端を凸か凹のどちらかに切り欠き、それぞれの端を合わせて箱に組む様に作られており、移動する時にはバラして板のまま持ち歩き、移動した先でまた組み立てて使う、そんな工夫によって作られたものです。
板の表面を横に走る(鑿の様なもので付けられた)筋も、持つ時の手掛かりとして考えられたのでしょうが、その筋がこの箱に一種の強い調子を与えていて、見事です。