「工藝の世界で仕事を続けて来て、仕事冥利につきると貴方が感じるのは?」と聞かれたら、私の答えは一つです。「わくわくする様な美しい品に巡り会った時!」、そう答えるに違いありません。そんな品の一つ、今回御紹介するアフガンの古鉢を初めて目にしたのは、京都の輸入業者の薄暗い倉庫の中。25年程前の事です。
これらの古鉢は、西欧や中南米の焼物に多い軟陶(楽焼などの比較的低い温度で焼かれた焼物の事)と呼ばれるもので、その業者によれば、送り出す現地業者の梱包があまりにも杜撰(ずさん)であった為に、開けた荷の中は多くの古鉢が割れたり欠けたりしていて、ひどい状態であったと聞いています。私もこの時手に入れた十数枚の鉢を、後にほとんど金繕い(きんづくろい)に出しました。
ご紹介するこの三種の古鉢は数種の釉を白い化粧土の上に、筆ではない何かスポンジ様(よう)のものを押し重ねて様々な模様を作っています。他に筆の様なものを使って鉢の上に「点打ち」を施したものや素地に化粧土で模様を描いた上から三種(緑釉、黄釉、褐釉)の釉を掛けたもの、そして勿論それぞれの釉色の無地の鉢もあります。裏を返してみると、裏は無施釉で小さめの高台が付けられており、古鉢の長い使用時間を物語る様に、高台は随分すり減っています。鉢に施された模様から受ける印象と同じく、器形もゆったり大きくおおらかなもので、写真で見ると実際以上に大きく見えるのはそのロクロの所為かもしれません。(径約42cm 高さ約10cm)
そして、手に入れた時期は異なりますが、同じアフガンの陶椀二種も御紹介しましょう。仕事としては、古鉢と同種の仕事で片方は緑釉の無地碗(径17cm 高さ7cm)、もう一方は化粧土で模様を描いた上から銅釉系統の薄青の釉を施したひと回り小さな碗(径15•5cm 高さ6cm)です。どちらも「茶」の茶碗として使ってみた事があります。緑釉無地碗は大振りの抹茶碗とほぼ同じ大きさ、小碗はそれよりもひと回り小さめです。
碗の中、見込みよりも心持ち外側に一本の線が引かれていて、それぞれの陶碗の景色を引き締めるのに大きく貢献しています。外は古鉢と同じく、二つ共に無施釉で口縁部が若干厚めの作りなので、お茶を頂く時にどうかと思いましたが、私はまったく気になりませんでした。「好き!」と云うのは、そんなものかもしれませんね。