2016年12月31日土曜日

忘れられないもの 21 古道具 坂田での買い物


東京 目白にある坂田和實(さかたかずみ)氏経営の「古道具 坂田」は、従来型道具屋の決まりきった物差しによる品揃えや有り様を大きく変えた(私の独断と偏見に基づくもので客観性はありません、念の為)、と云う意味に於いて過激な(!)道具屋です。若い人達が経営する「道具屋」の形にも大きな影響を与え、後、日本のあちこちに「坂田スタイル」の道具屋が出現しました。私自身も大きな影響を受けました。更に、現役の「もの作り」の人達の中に多くの顧客を持っている事でも有名で、民藝の世界では芹沢銈介や池田三四郎などのビッグネーム、また安藤雅信や内田鋼一などの売れっ子陶芸家、建築家の中村好文や華道家の川瀬敏郎、金色のカッパの彫刻で知られる美術家の村上隆など、枚挙にいとまがありません。

千葉県長生郡に個人美術館「as it is」を持ち、ある時期は「芸術新潮」紙上に「ひとりよがりのものさし」を連載(後に単行本化)、2012年には渋谷区立松濤美術館で行われた「古道具の行き先 ー 坂田和實の四十年 ー 」展で、“選んだもの”を通して自身の仕事が紹介されるなど、まさに「古道具屋」として八面六臂の活躍ぶりです。大学が傍であった事もあり、私は四十数年前から通い始めました。


今回御紹介する十八世紀のウィンザーチェアー(高さ 九十一cm 巾 六十五cm)は、「坂田」に於ける私の最初の買い物です。前年に火事で焼け出された後、借りたアパートの部屋まで坂田さんに椅子を配達してもらった時、その椅子以外、他にほとんど家具もない部屋の様子にあきれられた覚えがあります。


次は、西アフリカ•マリ共和国ドゴン族の木の扉(高さ 百四十六cm 巾 五十六cm)です。二十五年ほど前の買い物です。今年の五月アクロス福岡で行われた書展「書 花 茶 手紙 ーあまねや工藝店と共にー」の際に出品した、同じドゴン族の梯子と同じく、具体的な暮らしに根拠を持つ造型です。彫刻家の造形する彫刻よりも、はるかに説得力のある形である様に私には見えます。

2016年12月17日土曜日

「工藝の愉しみ • 師走展」本日初日

今年最後の催事「工藝の愉しみ • 師走展」を、本日17日から25日まで開催します。11月下旬に出掛けた折、数カ所で選品したものです。ひとまず写真でご覧に入れます。準備が遅れ値札がまだです。ゆっくりとお出掛け下さい。熱い焙じ茶を用意してお待ちしています。
 
2階正面、ガラス絵のイコンや板絵付き鏡が壁に
奥に見えるのがパキスタンのチェスト
手前がエチオピアのスツール、右はキリム
韓国やインドの燭台ほか、手前左に
見えているのがルーマニアの陶製の菓子型
パキスタンのチェスト
上にルーマニアのピッチャー
キリム類
民藝や工芸関係の書籍類
白いのはホーローのお玉類
キリム三種
オールドのガベ
初見のブランケット類や天幕飾り

2016年12月5日月曜日

忘れられないもの 20 インドの染織品四種

子供服二種
婦人スカート生地
ナガ族 勇者のマント
東京•渋谷に程近い目黒区自由が丘にあって、印度やアジア諸国の染織品を中心に七千点以上に及ぶコレクションを所蔵する「岩立フォークテキスタイルミュージアム」の館長•岩立廣子(いわたてひろこ)さんに初めてお会いしたのは、かれこれ三十五•六年前の事です。岩立さんは、四十数年に及ぶ印度に関わる御自身の活動の一環として、これまでに様々な展覧会を企画実現して来られました。中でも駒場の日本民藝館を会場にして、一九八五年夏「ヴィレッジアート展 西印度砂漠地帯の暮らしと美 」と名付け催された展覧会は、若い世代の関心をも集めて、日本民藝館の企画展としては記録に残る程の入場者数となり、以降、日本民藝館入館者に若い人達が増える切っ掛けになったと聞いています。五年前、その一端を伺わせるコレクションの一部が「福岡アジア美術館」に並んだ事がありますから、ご覧になった方があるかも知れません。

当店でも一度だけですが、三十五年程前に貴重なコレクションを拝借して、展覧会と講演会を企画した事があります。その折に強く印象に残っているのは、コレクションの素晴らしさもさる事ながら、御自身で撮られた写真(スライド写真)が実に良い写真であった事と、現地で御自身が経験された話の面白さでした。四十年、八十回に及ぶ渡印で撮られた写真が三万点にも及ぶそうで、現在はそれをデジタル化する作業が進行中なのだそうです。さて、今回御紹介する染織品四点は、いずれも岩立さんが印度染織品の店「バザール岩立(後のカディ岩立)」をやっておられた二•三十年前に頒けて頂いたものです。どれも色鮮やかで美しいものです。先の二点は印度北西部ラジャスタンかグジャラートいずれかの州の子供服、次も同じ地域の婦人のスカート生地。三点共に施された刺繍が何とも素朴で可憐なもの。最後は、東部印度ナガランド州の「勇者のマント」と呼ばれる仕事で、子安貝を丸くパターン状に止め付けた美しいものです。

2016年12月4日日曜日

忘れられないもの 19 常滑の古壷二つ

(大) 高さ 45cm 口径 24cm 肩径 40cm
(小) 高さ 26cm 口径 15cm 肩径 20cm
十五•六年前、信楽にあるMiho 美術館で開催中の“大信楽展”を見に出掛けた事があります。JR大津駅から信楽方面行きのバスに乗って約一時間。終点でバスを降りると、そこから専用の電気自動車に乗り換えて、トンネルを抜けしばらく走って展示棟にたどり着く、そんな広大な敷地に建つ美術館でした。設計は、パリのルーブル美術館に新設されたガラスのピラミッドで有名な中国系アメリカ人の I•M.ペイです。

さて、その“大信楽展”ですが、仏文学者の青柳瑞穂や写真家の入江泰吉、また文筆家の白洲正子など、いまは故人である著名人の旧蔵品に混じって、アメリカやヨーロッパの美術館から「里帰り」の展示品もあって驚きました。というのも、これら信楽の古壷に見られる灰被り等の表現(と、ひとまず言っておきます)は、西欧人の目に決してわかり易いものではない、と私は思っていたからで、それが一つや二つでなく、複数の美術館にコレクションとして受け入れられていたのが、大層意外だったのです。(しかし考えてみれば、昔からボストン美術館に岡倉天心がいた様に、今は更に多くの日本人キュレーターが世界中にいて不思議はない訳で、私が単に世間知らずだったからかも知れません)ただ、これも視点を変えて、例えば「美術の範疇」でこれらの古壷を眺めてみるとどうでしょう。極めて抽象度が高く、変化にとんだ圧倒的に美しいオブジェとして世界中で認められて然るべきでしょう。しかも、美術の世界の巨匠達が残した自覚的な作品に比べて、圧倒的に価格が安いのです。この「世界文化遺産」とでも云うべき品々の美しさを発見したのが、初期の茶人達と柳宗悦だったのです。

2016年12月2日金曜日

松形作品紹介 “ 点打ちの仕事を中心に ”


今展では、2年前の第1回展で初めて目にした“点打ち”の意匠が色々な仕事に取り入れられて、私の目を楽しませてくれました。中でも、ひときわ良い仕事だと私が思うのは尺鉢の仕事です。今展にも、もっと大きなサイズの点打ちの鉢が出品されていますが、松形さんに伺うと、仕事がし易いのは尺鉢のサイズが一番との事でした。いくつかご覧に入れましょうか。会期は明日3日と4日のみ、お出掛け下さい。

一階の“のぞき”に掛けられた尺鉢
DM用に送られて来たもので、
ご本人は今展で一番の出来、との事
2階正面右手に掛けられた一点
打ち掛けられた釉薬が黒釉と灰釉の
組み合わせの作、私の好きな一点
“のぞき”に掛けられた一点と似た意匠のもの
一文字の意匠の一点、絵画的な印象を
松形さんは気にしておられましたが、
全く問題なし、と私は思います
流し釉の仕事三点、下は九寸鉢
黒釉尺鉢、出来の良い一点
今展で私の最も好きな一点