福岡書芸院発行の冊子「たんえん12月号」掲載の連載記事、「忘れられないもの9 ー 帚三種 ー」をお届けいたします。
今年最後の原稿をお届けします。十二月は一年の最後の締めくくりの月でもあり、来るべき新しい年に向けて、家中の大掃除を計画中の皆様方もいらっしゃるでしょう。そこで、前号でお約束した編組品の紹介はしばらく置いて、掃除に欠かせない(と私が思っている)、帚(ほうき)三種を紹介いたします。とはいうものの、いまやスイッチを入れると勝手に床を掃除してくれる掃除ロボットまでいる時代です。掃除にそれら最新式の電気掃除機でなく、帚をお使いになる皆さんがいまどの位いらっしゃるのか、私には想像も出来ませんが、ひどく少ないのは間違いないところでしょう。
さて、白川静著「常用字解」を繙いてみると、「掃除とは、帚を手に持って廟(みたまや)の中を祓い清める事」とあり、そもそも「掃」という言葉の中に「帚」そのものが隠されていて、道具としての「帚」が古い歴史を持つものである事が良くわかります。もちろん、私が世界中の帚を見た訳ではありませんが、用途がはっきりしている処から導き出される形は、洋の東西を越えて、ある共通する形がそこに見える様に思います。
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左 中国の帚 右 フィリピンの帚 |
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日本(京都)の帚 |
帚三種のうち、丈が一番短いものは中国のもの(丈80cm 巾35cm)で、ある時期、諸処で開催される「中国物産展」等でよく見掛けました。ホーキ草の柄の「束ね」にところどころ籐を使って巻き締めてあり、帚の仕事としては値段に見合うだけの最低限の仕事ですが、手間の面での妥協はあっても嘘はない仕事振りです。柄の先に環が見える品はフィリピンのもの(丈95cm 巾50cm)で、これもホーキ草を材料として作られているものです。籐で柄の元から末に至るまできっちり巻き締められ、環状にして柄の端の籐を納める作りも含め見事な仕事です。ただ、材料のホーキ草としての種が違うのか、穂体(ほずみ)の部分が、前述の中国のものが固めであるのに比べ、全体にしなやかでそこが二つの帚の大きく違うところです。最後の丈が一番長いものは日本のもの(丈123cm 巾25cm)で、柄は真竹で穂体には棕櫚皮を使い、銅線を使ってそれをきっちりと巻き締めてあります。いかにも日本の職人の手仕事らしく、全体に几帳面な仕事振りが伺えます。それでは、皆様どうぞ良いお年を!来年もよろしくおつきあい下さい。