トルコのピッチャー三種 |
ルーマニアのジョッキ二種 |
持ち手の付け方の違い |
「淡遠」紙上に場を設けるから何か書く様に、と云う趣旨のお申出を「福岡書芸院」主宰•前崎鼎之さんから頂戴した時、自身の身辺に散する「民藝品」、名を立てぬものの美しさを持つ品々、を先人にならって一冊にまとめる為の自分なりの第一歩にしたい、と考えました。おおよそは隔月に一回ずつ、そのつど写真に簡単な文章を付けて、ひとまずは20回位を目処にして皆様方にご紹介したいと考えています。
さて、英国の陶芸家バーナード•リーチと云えば焼物を仕事にする人や民藝の世界に関わりの深い人達はもとより、その世界に馴染みのない人たちの間にまで、広く名前を知られた世界的な陶芸家です。
そのリーチさんが、戦後間もない1953年2月から54年10月にかけて、約1年8ヶ月もの長い間にわたって、日本の各地を友人の柳宗悦や浜田庄司また河井寛次郎達と旅して廻った事は、その著「日本絵日記」(1955年 毎日新聞社刊)に詳しいところです。同書によればその旅の間、山陰から九州あるいは益子など日本の諸窯で、土地の工人達と一緒に焼物を作った旨の記述があります。それは自らの学びの為であると同時に、それぞれの土地の陶土や技法を使いながら、自らの身に備わった感覚や技術を駆使して、彼ら工人達に新しい焼物作りの可能性を探り示す事であった様で、いまだに諸処の窯でリーチさん制作の品が残されている所も珍しくありません。戦後日本の民窯にとって大恩人とも言うべき、そのリーチさんを通して各地に伝えられたもっとも顕著な技術の一つが、「ウェットハンドルメソッド」と呼ばれる珈琲カップや水差しに使われる持ち手の付け方です。
写真は、トルコの水差し3点とルーマニアのジョッキ(おそらく)2点です。ルーマニアの品は最近手に入れたもので、16世紀後半のフランドルの画家ペーテル•ブリューゲルの名作「農民の婚礼」(1568年頃 ウィーン美術史美術館蔵)の絵の左下の隅に山積みになっているジョッキと形が似ています。興味深いのはそれぞれの持ち手の付け方に違いがある事で、トルコのものはリーチさん由来のウェットハンドルメソッドそのまま。それに比べると、ルーマニアのものは持ち手の根元を指で押さえただけです。このやり方は初めて見ました。二つを比べて見られる様に、持ち手の部分を並べて撮りました。