2012年3月26日月曜日

Sの閉店





「中野知昭個展」最終日の昨日、開店前に博多港近くのマリンメッセで行なわれている「全日本陶磁器フェスタ」に行き、今年も出店している川連のSさんのブースに立ち寄り、御挨拶して来ました。Sさんによれば、現在川連の漆器製造を生業にしている人の7割くらいの人が跡を継ぐ人もなく、やがて廃業するとの事。深刻な話しです。数年前に、椀木地の最初から最後までを一つの産地で作る事が出来なくなって来ている、と云う話を聞いたばかりでしたから、この話が想像出来なくはなかったにしても、事態が進めば私達の眼の前から良質で比較的安価な漆の仕事が消えてしまう日が、やって来るのは確実です。鳴子で漆器工房を経営していた故・澤口滋さんが40年程前に書かれた小冊子の中で、漆の仕事を生業にしている人達が夫々の領域で直面している危機的な状況が、何か特定の原因に拠るものでなく、私達が選び取ってしまっている現在の「工業化社会の行き着く果て」であると指摘されているのが、今更ながら身に沁みて思い出されます。

ところで、ここ数年馴染みになった「洋食屋Sを閉めようと思う」と、オーナーシェフのS君から聞かされたのは、昨年11月の終わり頃の事だった様に記憶しています。材料を吟味して手間を掛けた料理を比較的安価な値段で提供するのだから競争相手はファミリーレストランだけ、と云うS君の当初の目論みは潰えた事になります。残念です。
さて諸手続きがようやく終わり、いよいよ昨日が「S」最後の営業日と聞かされて、私達夫婦も出掛けました。ビュッフェスタイルで、名物のクスクスやパテにパエッリャ等、いろいろな食べ物と飲物が用意されていました。午後4時から11時までの営業だったのですが、店を閉めて出掛けた7時30分頃は、店に入り切れない程の沢山の人で大賑わいでした。川連の状況もSの閉店も、「不況」の言葉だけでは説明し尽くせない“やりきれなさ”だけが残りました。

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