25年近く前の事になります。
あまねや工藝店で、初めて「蟻川工房ホームスパン展」を開催し又それに伴う講演会を企画した時、当店に代わり「福岡県工業試験場」が往復の飛行機代を負担して下さるというのです。
当然、そこには交換条件がありました。その条件とは、福岡在住の織り手の人達を集めた講演会の中で、蟻川さんがやっておられた織物技術のすべてを明らかにする事。当時から、大人(たいじん)の趣のあった蟻川さんは、動ずるふうもなく受け入れて下さいました。
その後、福岡では織り手の間で「昼夜織」(蟻川工房製の大判ストールに使われている技法)が大流行。今は忘れられている“福岡の織物界”に対するこんな貢献も、蟻川紘直さんはしています。
さて、今回の「北の手仕事展」にも蟻川工房のマフラーや大判ストール等が、たくさん出品されました。中でも、私が大いに感心したのは2点の服地です。1点目の「茶格子服地」は、向かって左の“のぞき”の中に。2点目の「緑ミックス服地」は、1階から2階に上がる右手の吹き抜けの板壁に、それぞれ掛けました。あくまで個人的な見解ですが、この「茶格子服地」が今回の「北の手仕事展」に出品された仕事の中で、一番の仕事だと思いました。
蟻川さんが亡くなって、今年で13年。蟻川夫人・喜久子さんから、工房を託されて主宰している伊藤聖子さんの中に、蟻川工房の仕事の「芯」がきちんと継承されている事が、ありありと見える仕事振りで私は嬉しくなりました。私同様、“のぞき”の中の服地に魅かれて店に入って来られたお客様や、板壁に掛けられた服地に「心がざわめいた」と仰るお客様もあって、意を強くしました。
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