2008年11月21日金曜日

私たちのやって来た事、やろうとしている事






今月24日まで鹿児島で、その後唐津・福岡の順で小鹿田・坂本工窯の「新作 無地シリーズ」の展観を行う事になっています。
以下の文章は,その展観に際しシリーズの経緯を説明する為に私が書いたものです。

2006年11月に友人の柳沢敏明さんがやっている埼玉・浦和の柳沢画廊で「あまねや工藝店」としての 催事を引き受けた時、頭に浮かんだのは会場が美術画廊である以上見に来て下さる方々は、主として平 面の作品を多く見慣れておられるに違いない事、したがって企画の柱になる作品は平面に近いものの方 が、見て頂き易いのではないかと云う事でした。
そこで、その前年当店催事として行われた「小鹿田・坂本工(さかもと たくみ)窯の仕事展」に出品された 尺一寸皿100枚を用意し、それを催事の中心に据える計画を立て、坂本工さんに相談をいたしました。 まず、この試みが一回きりのものではない事。現状を見る限り、今の小鹿田窯の仕事そのものの中にこれ から先の時代につながる可能性が(私には)見い出しにくい事。であるとすれば、今それに対して何らかの 形で具体的な提案をすべきではないか、ただしそれはすぐには実を結びにくい事。 小鹿田窯のこれ迄の三百年を考えれば、三百年先に元をとるくらいの覚悟でやらねばならないだろう事。 こんな無茶な私の提案を概ね、坂本さんが呑んでくれたお陰でこの企画が実現する事になりました。

坂本工窯の窯焚きは、1年に平均で5回です。これまでは、作られる品のほとんどすべてが注文品であり 特に腕の良い坂本工さんは、料理研究家の辰巳芳子さんに見込まれて、彼女の案になる「擂り鉢数種」の 制作に忙殺されています。 注文をこなしてさえいれば家業は安泰である筈なのに、見込みの立ちにくい新しい仕事を坂本さんが引き 受けて下さったのは、説得に応じてと云うより私への並々ならぬ御好意の故だと、勝手に思っています。

さて、一年で尺一寸の皿100枚を準備するのは、口で言うほど容易な事ではありません。
これを単純に 5回の窯に割り振れば、1回につき20枚の皿を用意すれば足りる計算になります。しかし、窯に入れた 皿の全てが作品として採れる訳ではなく、焼成の前に素焼きをしない「生掛け」と呼ばれるやり方で仕事を 進めて来た小鹿田窯の場合、焼き割れや歪み、生焼け等々の不良品が発生する確率がひときわ高いの です。それらの諸条件を考えれば、まず必要とされる量の3倍、300枚が1年間の目標枚数になります。
しかし、数への見込みはこれで良いとしても、「何をどのように作っていくか?」これはもっと大きな問題 です。 この計画を進めて行くに当たって、実作者でない私に出来る事と出来ない事、やって良い事、 いけない事を、自身の中ではっきりさせる事が必要でした。 まず決めたのは、次の様な事です。
「何を作るか」については作り手の坂本さんが決める事。作る物のヒントや切っ掛けになり得る古今の様々 な品々を持ち込んで見て貰ったり、出来上がって来た物への感想を述べる事、更に展覧会に出品する物、 しない物の選択は私が責任を持つ事にして、坂本さんの仕事が進むのを待ちました。
「窯が開いた」と連絡を貰う度に坂本家に出掛け、窯出しされた作品の中から展覧会に出すべき品を選ぶ、 そして夜は、奥さんの嘉代さんの手料理と酒を食べかつ呑みながら、遅く迄あれこれの事を語り明かす。 この繰り返しは、私にとって実に楽しい経験であり充実した時間でしたが、作り手の坂本さんには苦しくも あり、不安でもあったに違いないのです。それでも、なんとか目標の数を作り終え「抽象紋の皿100展」と 題し、2006年11月2日から14日迄、前述の柳沢画廊で無事開催にこぎつけ、幸い好評を得ました。 その時の模様は、以下の柳沢画廊のホームページのアドレスにアクセスすれば、ご覧頂ける筈です。
http://www5.ocn.ne.jp/~gyanagis/

今年2008年度の坂本窯・新作への試み「無地シリーズ」は、小鹿田窯の仕事を更に源流へとさかのぼり、 「化粧(模様)」の意味を確認する為に、加飾を施さない裸の形を探り求める処から、改めて出発しようと云う ものです。作り手にとっては更に厳しい課題が続く事になりました。来年はその課題を踏まえた上で「模様 の発見」へと向かい、その後「標準(スタンダード)への提案」と計画を進めて行く事になります。2年後の2010年には福岡と埼玉・浦和での展観を
終え、ひとまず「新作の発見シリーズ」を終了する予定です。
これらのシリーズは,それぞれ独立したものでありながら互いに深く関わり,課題もまた一年で解決されるものではありません。私たちのささやかな試みの幾つかが,いつか野草の様に小鹿田の地に確実に根をおろし,静かに拡がって小鹿田窯全体の定型(スタンダード)の
一つとして受け入れられ,続いて行く事。
これがこのシリーズの目標であり,私たち二人の願いなのです。

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