2009年11月25日水曜日
東京から東北へ その5
冷たい雨の降る中、駅まで出迎えてくれた鈴木君の運転する軽トラックに乗って30分ほどの新しい住まい兼工房に向かいました。鈴木君は空き家になっていた茅葺きの民家を丸3年かけて自力で修復し、登り窯も移し終えた最初の窯焚き直前の昨年5月に「宮城県内陸地震」で被災。窯にひびが入ったり窯内の作品が壊れるなどして私を心配させましたが、今年2月に地元のギャラリーで、移窯後の初個展にこぎつけたのでした。さて、案内されて母屋に入ってみると、まず囲炉裡の部屋があり盛んに薪がいぶっています。母屋の右手の下屋の中が細工場で、薪ストーブを焚いて暖かくしてあります。部屋の7割ほどに板が張ってあり、私はここに泊めてもらいました。翌朝、目が覚めて母屋に顔を出すと、今朝はなんと素晴らしい天気です。陽に暖められて、地面や茅葺きの屋根からさかんに蒸気が上がります。明かり障子は開け放たれて、部屋を暖めるものは掘りごたつだけですが、とても良い気持ち良い眺めです。持参した土産の珈琲は、いつもの様に鈴木君が乳鉢でつぶし香り高く点ててくれ、トーストや野菜とともにいただきました。この時の私の失敗話を一つ。小皿にスプーンが添えられた白い粉末状のものが卓上にあり、私はてっきり砂糖だと思い込んでミルクを足した珈琲に入れて飲んでみると、これが塩っからいのです。飲んだ事はありませんが、チベットなどで飲むと聞いているバター茶もかくやと思われる、一種不思議な味でした。聞けば、同君は砂糖はほとんど使わないのだそうです。ところで、鈴木君の現在の同居人は、6歳の柴犬一匹、やぎ一頭、鶏一羽(狐に盗られるまでは三羽)です。大変な事が続いた後に、鈴木君に与えられた小王国。羨ましい様な暮らしぶりですが、誰にでも出来る事ではありません。12月の2週目に、仙台のデパートでの個展を控え忙しい日程の同君と、忌憚のないお喋りを楽しみ、昼頃に新幹線で仙台の宮城県立美術館へ。ここで、初めての「洲之内コレクション」を見た後、7時過ぎに無事東京へ帰り着きました。
まあ、本当に実りある豊かな旅になりましたね。読んでいるこちら側にも、冬の凛とした空気の冷たさとコタツの暖かさ、朝食のコーヒーの香りなどがしっかり伝わってきます。
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