2016年4月30日土曜日

忘れられないもの 13
スペインとメキシコの白木の椅子

福岡書芸院発行「たんえん」4月号掲載の「忘れられないもの13  スペインとメキシコの白木の椅子 」をお届けします。

スペインの白木の椅子
メキシコの白木の椅子 大 • 小

今回は、スペインとメキシコの白木の椅子をご紹介します。スペインの椅子は、グラナダから60kmほど離れたグァディスという田舎町で、かつて作られていたものです。1972年に朝日新聞社から出版された「世界の民芸」の中で、陶芸家の濱田庄司がこの椅子を紹介しています。それによると、「 ロバの背に積んで運ばれて来た細長い薪の様な生木が、両側に握りのついた刃物(桶屋の使う銑[せん]の様なもの)であっという間に皮を剥かれ、前脚用、後脚用、背受け用に、脚止め用と加工されたそれぞれの部材が、開けられたホゾ穴に水を吹いて(生木なので)叩き込まれ、一脚の椅子の骨組みを作るのにわずか十五分。八脚ほどたまると、ロバの背につけて少年が座を蒲(がま)で編み、出来上がり 」との事。私も四十数年前に数脚手に入れました。
現在でも、蒲で編んだ座こそ傷みましたが、弛みも狂いもありません。大した仕事振りです。(背の高さ82cm 座の高さ40cm)

次に、10年ぶりに入荷したメキシコの白木の椅子です。こんな椅子を作る処はメキシコでも、ここ一軒だけになってしまったそうです。スペインの椅子と同じ生木の仕事です。作り方も、スペインの椅子とそう大きくは違わない筈で、「生木のまま手早く加工して、乾くとホゾ穴が収縮して 締まり材が抜けなくなる」というものです。
「きちんと」とか「丁寧に」という言葉と、おおよそ正反対の、「大雑把で乱暴な作り」と見る人が大半かも知れません。しかし、私の見るところ、この椅子は「簡にして要を得た」と言うか、(たくさん作る為の)限られた時間の中で、必要最小限の手間で使うに困らない(結果として丈夫な)椅子を作っているのです。その作られ方が、この椅子に“活き活きした感じ”を与え、いま作られている品としては、例外的な程「美しいもの」になっているのではないでしょうか。蒲で編まれた低めの座に腰を掛け、足を投げ出して座ってみると、まことに良い気持ちです。大人用を一回り小さくした子供用もあります。
(大 高さ65cm 座の高さ35cm 小 高さ49cm 座の高さ25cm)

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